インタビュー 大江広一郎(農家)

  • インタビュー

べじたぶるぼーと 大江広一郎さん
(亀岡市旭町)

サラリーマンをやめて、農業を始める。
後悔したことは一度もないですね、途中でやめたいと思ったこともないです。

Interview

 

サラリーマンからの転身。縁もゆかりもない亀岡へ

学生の時に環境NGOで山形県の田んぼに草取りをしに行くツアーへ参加したんですが、それをきっかけに、農業に興味を持ち始めました。
2泊3日7000円だったので、それならと思い行きましたが、それまでは全く興味はなかったんですよ。
出身は東京で、大学卒業後はサラリーマンをやっていましたが、ずっとやるには厳しいかなと思うようになりまして。それで、もともと興味があった農業をやってみてだめだったらまた考えよう、と仕事を辞め、大阪の能勢町にある農家さんで、一年間研修をさせてもらいました。
その時、知り合った主婦の方の紹介で、10年前に亀岡で就農することになりました。
実際に農家さんを見たら、かっこいいなと。ひとが食べるものを作っている人って実はすごいんじゃないかなと思いました。

約70軒に、自分の車で届けに行く

大体3反の面積で育て、収穫した野菜は約70軒の方々に一軒一軒、自分の車で届けに行っています。配達先は、9割が京都市内で、1割いかないくらいが亀岡ですね。
種類をたくさん作っていて、年間だいたい90種類はつくっています。例えば、トマトが全滅してもナスがあればいい、という考えです。だから、出荷する野菜が何もないという状態はありませんね。その中から5種類を選んでセットを作り、みなさんに届けるやり方です。

 

自然に任す作戦

作物を育てるために、常に工夫はしていて、師匠のやり方とも違います。いろいろやりながら、独自のやり方に行き着いた感じですね。
例えばキュウリとトマトなど以外は、支柱を立てないで作っています。支柱を立てても、しっかり括り付けていないと、台風のときとかにぼきぼき折れてしまう。亀岡は風も強いし、台風も年に2、3回は絶対くるので、そのたびに折られると大変なんです。なので、最初から支柱なしにして自然に任せる作戦です。風に強くなります。
また、農薬は使わないし、虫が来ない対策は特にしていないです。ナスの害虫であるニジュウヤホシテントウなんかは、ひたすら潰せば何とかなりますが、アブラナ科の害虫であるダイコンサルハムシは潰しても対処しきれないので、アブラナ科のものは、時期をずらして植えています。無農薬だとその時期の野菜は植えられないです。
いろいろと失敗しても、失敗した分だけ経験にもなりますね。

支柱を立ずに育てたパプリカ

自分のやれることを、やれる範囲で

面積をどんどん広げてやっていくと、どこかで限界が来るんじゃないかという考えで、なるべく小さい面積で成り立つようにするのが一番かなと思っています。そのほうが新規就農したい人にも参考になるかなと。
一から農業やろうって時に、広大な面積じゃないとやれないよと言わわれたら無理じゃないですか。そうではなく、3反くらいの面積で成り立っていれば、自分でもできるかなと思うんじゃないかな。僕の師匠がそういう考えだったんですね。
「規模縮小農業」をして、なるべく少ない面積で成り立たせれば畑が足りなくなることもないし、畑が少しあれば成り立つ人がいる。そういうふうになれば、若い人が入ってきやすいし、農業をやる人が増えるのではないかなと思うんです。

大江さんの野菜、雑草と共存しながら育つ

やる人が少ないからこそ、いろいろなことに挑戦できる

亀岡は、10年くらい前まで新規就農者を受け入れたことがないと言っていたんですね。
当時は、移住者も少なかったし、他から入ってきて、農業をやるって人もいなかった。
一番手の人はこの近くにいるんですけど、僕は二番手、三番手くらいだったと思います。
研修していた能勢町などでは、移住者が多く、受け入れ態勢が整っていたんですが……
でも、ずっと農業をしていく中で、新しい農家や、農業でネットワークがこの10年で増えつつあります。
野菜を関連づけたイベント(*)をやっているのも、積極的にやる、というよりは自分がやっていかないとやる人があまりいない状況だったから、やっている面もありますね。
でも、そうだからこそ、いろいろなことに挑戦できるのも亀岡のいい面かなと思います。
サラリーマンをやめ、一人で農業を始めましたが、これまで後悔は一度もしたことがないです。途中で辞めたい、投げだしたいと思ったこともないですね。

(*)亀岡の法華寺でパン、キムチなど発酵に関するイベントをはじめ、様々なイベントを主催している

インタビュー・文 / 滝田由凪(京都造形芸術大学文芸表現学科2年)

公開日:2019年10月23日