インタビュー 中嶋大輔(農家)

  • インタビュー

ハイツ野菜研究部 中嶋大輔さん
亀岡市旭町

土と真摯に向き合う「土の哲学」

Report

 

経験を繰り返す

中嶋さんは農業を始める前、レコード屋を経営していたという。異色な経歴の持ち主だが、農業に対する熱い思いを強く感じさせる。
今回の取材のなかで、中嶋さんの野菜を仕入れ、販売している八百屋の369worksさんにお話を伺う機会があった。その時、369worksの鈴木さんは、中嶋さんのことを「畑や野菜中心に動いている人」とされていた。それを聞いてどんな方なんだろう、少し気難しい方なんだろうか、などと考えてしまっていたが、蓋を開けたらそんなことは微塵もない。野菜や土のことを考え、心から向き合っている方で、取材に行った我々を優しく出迎えてくださり、インタビューにも笑顔で応じてくださった。その姿や内容から中嶋さんの人柄や野菜に対する思いがビシビシと伝わってきた。
驚いたのは、ハイツ野菜研究部の3枚の畑は、土質が全部違っているということ。それぞれの土質を見極めて、さらに季節に合わせて土の温度、地温を設定するために使われているのがビニールマルチ。黒色と白色、銀色の三色のビニールマルチがあり、色によって地温設定を使い分けるというきめ細かいことをされている。

取材していて、最も心に残った中嶋さんの言葉は「経験の繰り返し」だった。「人生が仮に70歳までとしたら、野菜作りはあと30回くらいしかできない。その30回でどれだけの経験が得られるか」とおっしゃっていた。確かに、1年に1回しか採れない野菜を収穫する回数は限られてくる。しかしポイントはそこではなく、その限られた時間の中で、どれだけの経験を得ることができるのかが重要なのである。
これまでの様々な経験によって、中嶋さん独自の今の農業の形がある。ハイツ野菜研究部は、中嶋さんと畑の二人三脚で美味しい野菜を作っているのだ。

取材・文 / 豊田拓二(京都造形芸術大学文芸表現学科2年)

 

Interview

 

できないものを受け入れる

僕の農業は無施肥無農薬からはじまりました。現在も基本的に土には何も入れないことにしています。そうすることでその土地によって、できること、できないことがわかったんです。ですが、今は施肥する畑と施肥しない畑があります。実際に両者の畑で実行してみることでその土地によって、できること、できないことがわかったんです。なので、ここの土には、石灰、油粕、米ぬかを入れています。それ以外の物は何も入れてません。
自分のエゴで土と野菜が万能に作れる! なんて、あらぬ現状を想像し、ねじまげるのではなく 理解し合うことで、できないものは受け入れていくのが無施肥無農薬を基本とする形なのかなと思っています。
でも、あまり入れすぎると土本来の持っている物が分かりにくくなってしまうので、必要なミニマムの量を見極めようとすることがポイントですね。最初からドバっと入れるのではなく、少ない量から始めていきます。 もし 無施肥でやりたいなら作物を絞り、無施肥で作れる野菜だけ作ってればいいんです! でも、商売ベースにはならないので、野菜づくりなのか、家庭菜園をしたいのかが線引きかなと思います。

旭町の土に合わせ、石灰を入れて作っているトマト

土の味を食べてもらいたい

僕は自分と、この畑に対して負荷のない野菜を作っています。
野菜の味って、土にイコールしてると思うんです。土の味を食べてもらいたい。野菜を食べたら、土の味分かります。何も入れてない土ほど味がないんです、味気ないんですよ。でもそれが僕が伝えたい味なんかなと思ってます。
大概の人は、自分の舌の感覚を信じてるような気がするんです。僕もそうですし。
例えば、カップヌードルは悪魔的な味で、美味しいじゃないですか。
そうではなく、その味を受け入れるっていう感覚で覚えてくれたらいいのかなと。好みを自分に寄せるのではなく、自分が その野菜の味を好みにするよう寄せていく。
好き嫌いではなく、こういう味なんだというのがわかれば、地味な味もいいものに感じるのかもしれないです。
甘くするのは、操作してるような箇所もあります。それが、必然的に甘いのであればその農家の売りやと思うんです。もちろん、品種のこともありますけど。

頭の中で考える農業はいくらでもできるんですよ。でも実際、身体を動かして働かないといけないので、そのバランスは一番大事かなと思います。
僕は就農する前にこんなふうになってるんじゃないかと頭の中で描き、無施肥でもこう育つだろうと想像していましたが、全く上手くいかないです。
現場に立ち、自分の農業をいち早く見出していくというのが大事かな、と思います。

落花生の芽。土の中の窒素を増やす役割がある。

人、野菜、土 それぞれの時間感覚

野菜の時間の感覚と、土の時間の感覚は違うと思います。
土がこちらの時間の感覚で合わせてきてくれるとは、僕には到底思えないし、自分の代でそれが解決するとは思わないです。
場所によっても、ケースバイケースがあるので、その場を見てどう施していくのかがテクニックかなと。だから、あの人がこんなことやってたからやってみようではなく、一回やって失敗した経験の方が生きると思います。自分のやってること、見てることを信じたほうが、早くその土地の土を知り、正解につながると思う。自分の目を信じてやってみてほしいですね。もちろん外からの意見も取り入れながら。
そうすることで、自分は何が作れるのか、何を作ればいいのかが見えてくると思います。

覚悟を持って

土地が変えられないなら、こっちでいかに変えていけるかが農家のあり方であり、そのための方法論の違いなのではないかと思います。いろんな条件があって、土に合わせてやることをできないこともあるんですよ。与えられた土地が必ずしも野菜を栽培することに適しているわけではないので、農薬を使ったり肥料を使う場合もあるってことは知っといてほしいなと思います。みんな収量あげて、生活していくために覚悟を持ってやっています。
全部を否定するのではなく、色々なやり方があるんだと感じてもらいたいですね。

インタビュー・文 / 滝田由凪(京都造形芸術大学文芸表現学科2年)

公開日:2019年10月23日