インタビュー 鈴木 健太郎(移動八百屋)

  • インタビュー

369WORKS 鈴木健太郎さん
南丹市

Interview

農業の魅力と田舎の価値を伝えたい

 横浜に生まれ、カナダとアメリカで育った鈴木健太郎さん。京都の大学で美学芸術学を学び、卒業後も木彫などをしていたが、ひょんなきっかけで亀岡に移住してから、畑をやる楽しさにハマってしまった。そうして、鈴木さんの農業をめぐる取り組みは始まった。
現在は、車で移動販売する八百屋で有機野菜を広めつつ、野菜づくりの「体験」をいかに共有していくか、またいかに農業と社会をつないでいくかを日々模索している。「369商店」あらため、「369works」としてのさまざまな取り組みについて伺った。

作る」より「売る」立場で農業にかかわる

僕はもともと元々木彫をやったりしてたのが、田舎に移り住んで畑を始めたことで、野菜の面白さにハマったんですよね。
物事を創造するってことはアウトプットなんで、インプットが必要じゃないですか、インプットをどう自分の中で処理するかによって、アウトプットが変わってくる。そういう中で農業っていう、土と触れて野菜を作るインプットは僕の中ですごい面白かったんですね。人生変えるくらいの。これは自分とかものを作る人だけの話じゃないって思って。土から得られる情報とか感性っていうのは他に変えられない何かだと。
でも、農家になるつもりはなかったです。うちで食べる分を作りたいというのと、畑とのやり取りを楽しんでいたので、そこが大事だった。家計を支えるとなると、楽しんでいる余裕がなくなっちゃうじゃないですか。ただ、農業にはかかわりたくて。
そう思っていたら、田舎に移り住んで2年目か3年目ぐらいのときに、八木町に有機農産物の生産と流通と技術開発の会社ができて、そこで野菜の集荷のアルバイトを始めたんですよ。八百屋さんとかに注文を聞いて、発注かけて、集めて、配送するまでを全部やっていて。そこからいろんな農家さんたちと知り合うようになりました。2年ほどやって、そこでいろいろ矛盾を感じて。なんで外にばかり出すの、亀岡でもっと売ればいいのにって。亀岡で売れる場所がないんですよね。でも、パン屋さん、カフェの前なんかで販売してみたら、亀岡にもこんなにオーガニック欲しがっている人がいるんだと知って。そこからですね。
役割でいうと、僕は「作る」より、人のものを「売る方」が向いてたんですね。その後に、移動販売の八百屋を始めました。普段の1週間のサイクルとしては、移動販売が2日間で、配達先は亀岡から京都市内にかけて、個人のお宅60軒、お店10軒です。

 

アーティストとしてのオーガニック農家

農家っていうと野菜や米を作る人ですが、一般的な会社の仕事と同じで、決められたものを作る農家と自分でクリエイトする農家がいるんですね。
一般的にスーパーに並んでる野菜は、JAとか他の野菜の流通会社が、この種でこの肥料でこの農薬をこのタイミングでかけてこういう形に仕上げた野菜なら買い取りますよっていう条件のもと生産されたものなんです。そこに自分の農業を表現する自由はあまりないんです。でも、農家の生活は保障されている。そういう仕組みで日本の食は支えられているんですよ。だからそれを否定したらいけないんだけど、いい部分も悪い部分もある。
それに対して、オーガニック野菜って公的な仕組みが全くないんです。じゃあ農家の方々はどうやってるかというと、まさに芸術家や作家と一緒なんですよね。どういう種を選んでどういう土作りをするのか。また、栽培方法とかも自分で勉強して、それをどれくらいの規模でやって、どういうパッケージで作って、どういう人を対象に販売するか。それを全て自分で決定して、自分をプロデュースして売り込んでいます。市場に流通している野菜には個性が全くないのに対して、オーガニックに関しては個性でしかない。できる野菜には、農家さんそのものの人柄や考え方が表れるんです。

「369商店」から「369Works」へ

もともと「369商店」では、亀岡南丹の野菜しか扱わないという主義でした。自分の足で集められる範囲のものを、自分の足で運べる範囲でしか販売しないっていう、とてもローカルなつながりを作っていて。そうすることで密なつながりを持って、地域の持続可能な農業を地域の人が支えるというのをやっていました。
そんなふうに、いろいろ伝えながら販売していたんですが、そろそろ「売る」って行為から、自分を解放したくて。「商店」にしちゃうと売るのが目的になっちゃうじゃないですか。僕が素晴らしいと思った体験を共有する手段は商売でなくても良いじゃん? と思って。ワークショップでもよければツアーでもお話会でも、農業体験でもいいし、もっと違う形があると思うんですよ。その可能性を僕は模索したくて。主に伝えたいことっていうのは農業そのものの魅力と田舎の価値。社会の中で「価値」が見直されなければあかんなって。
田舎って本来全員がその気になったら持続可能じゃないですか。山から木を切ってきて、煮炊きもできれば暖もとれる。食料も作れる、頑張ればコットンから衣服も作れる。衣食住全部揃えようと思ったらできちゃうんですよ。本来持続可能な田舎を持続可能にすることさえできないとしたら、社会全体の価値や物事の見方がすごい歪んじゃってるわけで、正しく見る必要があるんですよね。まあ、それを何らかの形で伝えたいって言うのが「369Works」です。

車がそのまま店舗になる

生産者がわかる野菜たち。他に小麦や米、調味料なども販売している

持続可能な農業を地域で支えるために 

そもそも、自分で回れるのは70軒。その大きいバージョンを作ろうと思って始めたのが「京都オーガニックアクション(KOA)」なんです。これは、八百屋何軒かで1つの集荷便、つまり物流を共有して、京都のオーガニック野菜をもっと京都のいろんな所で買えるようにしようよっていう取り組みなんですよ。
何のためにやるかというと、その地域の持続可能な農業をその地域で支えるってことの大切さを、もうちょっと知ってもらいたいというアクションです。ハブとしての八百屋さんに消費者をつないでもらって、僕はそのインフラの部分をやりたいと。インフラを整備することによって、それがきちんと流れる。これって本来行政にやってほしいところなんですよね。「持続可能性」の大切さを、ちゃんと行政が理解するかどうか。
仕組み的なことは、海外の事例を参考にしています。例えばアメリカのCSAグループ(Community Supported Agriculture)では、農家の暮らしをコミュニティで支えているんですね。例えば、季節ごとに消費者グループのメンバーが前金として農家さんに10万円払う。そうすると、毎週その人のために農家さんががんばって作った野菜が用意されている。で、そのファームまでその人が取りに行くと畑も見られる、というような仕組みですね。仕組みはどんどん変えていかなきゃいけなくて、でもそれは新しいものをゴンっと入れるんじゃなくて、前のものを時代にあわせてアップデートすることがすごく重要です。それがしたい。
今年はまず、京都全体のオーガニックマップを作ろうと言っていて。オーガニックが食べられる場所、買える場所、作っている人を1つのマップにして、日本語版と英語版です。

KOAのパンフレット

 

芸術祭と農家をつなぐ

僕は、ここに関わり始めて芸術とかアート関連の人たちと農業の親和性を再確認したというか、合うなと思いますね。でも、それはまだ未知の領域だとも思っています。そして、芸術祭という枠組みの中で「食とアート」をどう表現するのかは、まだイメージできていない。
役割としては、芸術祭と農家を繋いでいますが、農家の中にはやっぱり「アートと農ってどうなの?」という人が多いです。農家のリアルな声としては、それが商売につながるかどうかが大事なわけです。彼らにとって、関わることがちゃんと商売につながるかどうかは、つないだ僕の責任でもあるので、現場の声をいかに的確に主催する、運営する側に伝えていけるか、差し込んでいけるかが大事やなと思っています。

インタビュー・文 / 清水陽行(京都造形芸術大学文芸表現学科2年)

公開日:2019年11月27日