レポート・インタビュー 日下部裕一(農家)

クサカベ農園 日下部裕一さん
亀岡市東梅本町

ミュージシャンの感性で、農業を「届ける」

Report

クサカベ農園を営んでいる日下部裕一さんは、高校を卒業後、オルタナティブバンド4 bonjour’s partiesのメンバーとして、東京で活動を行っていた。その後、2012年に地元である京都の亀岡市へ戻り、京都のバンドLLamaに加入したが、翌年からは農業に専念することに。現在約20種類の野菜と米を栽培している。

日下部さんの田んぼがある亀岡市東本梅町は山の西側に位置しているため、西日が当たらず、水温が下がり始めるのが早い。だから、野菜は育つスピードが他の地域と比べて遅くなってしまうが、逆に、米は水温が早めに下がる方がおいしくなる。この地区で育てた京都丹波産キヌヒカリは食味ランキング1位を3年連続で受賞した。

実際に日下部さんの畑を見せてもらった中で、私が驚いたのは、ソーラーシステムを利用している畑があったことだ。太陽が出ているときにだけ、自動で野菜に水を与えてくれるのだ。そのぶんの労力は他に使える。日下部さんは、機械を取り入れるところと自分自身でやるところのバランスのとり方が上手な方だな、という印象を受けた。

日下部さんとソーラーシステム

畑をやる上でこだわっているのは「堆肥」だという。一般的には、牛糞、豚糞とおがくずを混ぜて発酵したものを入れるのだが、日下部さんの場合、動物の糞を一切使わず、木を2、3年かけて完熟させたものを入れている。以前、動物の糞が入った堆肥を使った際、見たこともないような雑草が生えてきてしまったことがあり、木だけを使うことに決めたそうだ。

安全な野菜は一部の人だけに提供されるのではなく、たくさんの人に食べられるべきである、と日下部さんは考えている。そのためには、野菜を安定して生産することも必要で、有機農業と慣行農業が対立せずに、それぞれの良いところをバランスよく利用していくことが大切になってくる。穏やかに語ってくれた日下部さんからは、安全な野菜をより多くの人に届けたい、という強い思いが伝わってきた。

取材・文 / 樋口萌(京都造形芸術大学文芸表現学科2年)

 

Interview

標高200mの山々に囲まれたクサカべ農園。取材に伺ったのは6月の上旬で、春野菜から夏野菜への切り替え、さらに田植えも始まるという繫忙な時期だった。

人に頼らず、自分たちで生み出し、回せる社会を


僕は元々東京でバンド活動をしていました。音楽をやりだしたのは、たまたま家にアコギがあってそれを弾き始めたのがきっかけでした。高校生のときにバンドを組んで、その後は東京に行って、楽しくやり続けてきたんです。
でも、2011年にあった震災の影響でバンド活動が止まってしまって。あらためて立ち止まって考える機会ができました。そういう意味では震災はやっぱり大きかったかな。東北からもらっていたものが止まってしまうとどうしようもなくなる。その状況に違和感しかなかった。
色んなものを人に頼るんじゃなくて、自分たちで生み出して回していける社会。それはどうやったらできるんだろうか。そんなことを考えていたときに、(川口由一さんの)自然方法の本に出会って、これなら始められる、と感じたのが農業だったんです。実家は元々兼業農家で、土地はありました。

作る過程が面白い 音楽と農業に共通すること

この土地で農業を始めて、最初の3、4年は失敗ばかりで。そんなときに出会ったのが、近所でトマトとほうれん草とお米だけをやってるべテラン農家さんでした。この人はいわゆる篤農家で、高級スーパーのバイヤーが直接買わせて下さい、と来るような人でした。その方と仲良くなって、「この時期はこれ蒔いたらあかん」とか、具体的なデータを教えてもらうことによって、安定していきました。
それでも、農業は自然相手。台風一発でダメになってしまうこともあるし、その年、その年で同じように作っても同じようにはできない。有機的というか。ただ、努力が報われないことに慣れてるんですよ、ミュージシャンって。良いものを作っても売れるとは限らない。作る過程、できあがっていく過程が面白いんですよね。それは農業にも共通してる。

地域の活性化を考えたい

震災の後、しばらくして東京に行ってみると、普通の東京の街に戻ってて。人間にとってこのエネルギーは、少し大き過ぎるように感じたのではないかと。もしかしたら、都市型の生活に限界が来ているのかもしれないとも感じました。
そういう意味ではこれからは、「農家」という生き方が注目されることもあると思います。ただ、生き方だけがクローズアップされるのは怖いですね。(表があれば裏もあるし、)農業に関していえば、本当に危うい状況がずっと続いているので。僕個人の展望としては、法人化してこの地域に住んでる人を雇用したいです。少しでもこの地域が活性化していく一因になればいいなと思います。

「届ける」という思い

農業をやる上で一番根本にあるのは「届ける」という思いです。この国の食を支えなきゃいけないわけで、それができないなら農業は産業として成り立たない。
有機農業で成功されている方は慣行農業を否定しないし、慣行農業で成功されている方は有機農業を否定しない。互いにあれは1つの方法だと認め合ってる。その考えが浸透していけば、もっと良くなっていくと僕は思います。

 

インタビュー・文 / 大西将輝(京都造形芸術大学文芸表現学科2年)

公開日:2019年11月27日